スタートアップ経営者必見!フリーランス新法の対応漏れを防ぐ完全ガイド
2024年11月に施行されたフリーランス新法。スタートアップ企業にとって、フリーランスとの取引は重要な経営資源ですが、新法への対応を誤ると思わぬトラブルに発展する可能性があります。
本記事では、フリーランス新法の基本から実務対応まで、スタートアップ経営者が押さえるべきポイントを完全解説します。契約書作成のチェックリストとしても活用できる実践的なガイドラインをご紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
フリーランス新法の基本
フリーランス新法は、フリーランスの労働環境を整備し保護するために制定された法律です。正式には「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」という名称になります。
この法律が制定された背景には、フリーランスが取引上不利益を被るケースが多いという実態があります。内閣官房の調査によると、約37.7%のフリーランスが取引先とのトラブルを経験しており、その多くは報酬や業務内容の不明確さが原因です。また、40.4%のフリーランスが1社のみと取引を行っており、交渉力の弱さが問題となっています。
フリーランス市場は年々拡大しており、2021-2022年の調査では約1,577万人、経済規模23.8兆円に達しています。このような市場拡大に伴い、フリーランスの適切な保護と取引の適正化を図るため、本法律の整備が進められました。
対象となる取引
フリーランス新法の対象となる取引は、フリーランスと発注事業者の間で行われるBtoB(事業者間)取引に限定されます。具体的には、物品の製造、情報成果物の作成、役務の提供といった業務委託取引が含まれます。
一方で、フリーランスと消費者の間で行われるBtoC取引や、フリーランス同士の取引は法律の対象外です。また、業務委託以外の取引(例:単純な売買など)についても、この法律の適用範囲外となります。
対象者の定義
フリーランス新法では、取引の当事者を明確に定義しています。フリーランスは「特定受託事業者」として定義され、従業員を雇用していない事業者です。一方、発注を行う側は「特定業務委託事業者」と呼ばれ、従業員を雇用している事業者が該当します。
この定義により、取引における両者の立場と責任が明確に区分されています。なお、発注事業者は個人・法人を問わず、従業員を雇用していることが要件です。
従業員の定義
フリーランス新法における従業員の定義は明確に規定されています。期間の定めのない雇用契約で働く者、または週20時間以上かつ31日以上の雇用が見込まれる者が従業員として認められます。
一方で、短時間・短期間の一時的な雇用関係にある者は従業員としては扱われません。例えば、週15時間の勤務で2ヶ月の雇用期間の場合や、週30時間勤務でも2週間という短期の雇用期間の場合は、従業員の定義から除外されます。この従業員の定義は、事業者がフリーランスとして扱われるか、発注事業者として扱われるかを判断する重要な基準です。
契約書作成時の必須対応事項
フリーランス新法では、業務委託契約において取引条件を文書または電子的手段で明確に提示することが義務付けられています。契約書に明記する必要があるのは以下の内容です。
- 発注者とフリーランス双方の識別可能な名称
- 業務委託の合意日
- 業務内容の詳細(品目・数量・仕様など)
- 納期・納品場所
- 検査がある場合はその完了期日
- 報酬額と支払期日
特に知的財産権が関わる場合は、その譲渡や許諾の範囲、対価についても具体的に記載しなければなりません。
報酬支払いに関する規定
報酬の支払いについては、業務完了後60日以内のできるだけ早い時期に具体的な支払日の設定が求められます。再委託の場合は、その旨と元委託者の情報、支払期日を明示することで、元委託者の支払日から30日以内の支払期日設定が可能です。
禁止行為に関する規定
1ヶ月以上の業務委託契約では、発注事業者による7つの禁止行為(理由のない受領拒否、報酬減額、返品、著しく低い報酬設定、物品購入の強制、経済的利益の提供強制、理由のない内容変更ややり直し)が定められています。
契約解除に関する規定
6ヶ月以上の契約については、解除または更新しない場合、30日前までの予告が必要です。ただし、災害や再委託の解除、フリーランスの過失などの場合は例外とされます。
ハラスメント対策と両立支援
発注事業者にはハラスメント相談体制の整備と、育児・介護との両立への配慮が義務付けられています。これらの相談窓口を契約書に明記するとトラブルの未然防止につながることから、記載が推奨されています。
報酬支払いに関する新ルール
フリーランス新法の施行に伴い、フリーランスへの報酬支払いに関する新たなルールが定められます。これまであいまいだった支払期限や報酬額の設定について、明確な基準が設けられ、フリーランスの適切な報酬受け取りが法的に保護されます。以下が具体的な報酬支払いのルールです。
支払期限の設定
フリーランス新法では、発注事業者がフリーランスから成果物を受け取り、検品を終えた後、60日以内のできるだけ早い時期に報酬を支払うことが義務付けられています。例えば、「月末締め/翌月末払い」という支払い条件は60日以内に収まるため適法です。しかし「月末締め/翌々月15日払い」のように最大75日かかる支払い条件は法律に抵触します。
再委託の場合の特例
業務が再委託である場合は異なるルールが適用されます。この場合、発注事業者が業務の元請けから支払いを受けた日から30日以内に、できる限り早い支払い完了により、法律を遵守したことになります。
適用対象外の取引
フリーランス同士の業務委託取引については、この60日ルールは適用されません。ただし、良好な取引関係を維持するためには、可能な限り早期の支払い対応が推奨されます。
不当な報酬に関する規制
報酬に関して、発注事業者は市場相場と比べて著しく低い報酬を設定することや、正当な理由のない報酬の減額は禁止されています。これらの行為は、フリーランスの利益を不当に害するものとして規制の対象となります。
禁止される取引慣行
フリーランス新法では、発注事業者による不当な取引慣行からフリーランスを保護するため、具体的な禁止事項が定められました。以下の禁止事項は、政令で定める一定期間以上継続する業務委託取引が対象です。違反行為があった場合、発注事業者は行政指導の対象となり、命令違反などの場合は罰則が科される可能性もあります。
受領・返品に関する禁止事項
発注事業者は、フリーランス側に責任がない場合において、成果物の受け取りを拒否したり、一度受け取った成果物を返品したりすることが禁止されています。フリーランスが正当に履行した業務の成果が不当に否定されるのを防ぐための規定です。
報酬に関する禁止事項
市場相場と比べて著しく低い報酬の設定や、フリーランス側に責任がない場合の報酬減額は禁止されています。また、発注事業者が金銭やその他の経済的利益の提供を要請するのも認められません。これらは、フリーランスの適正な収入を保護するための規定です。
業務内容に関する禁止事項
フリーランス側に責任がない場合に、発注事業者が一方的に給付内容を変更したり、やり直しを要請したりすることは禁止されています。正当な理由なく発注事業者指定の商品購入や役務の利用を強制することもできません。
実務における対応策
フリーランス新法の施行により、発注事業者は契約実務の具体的な対応を実施しなければなりません。本法では、契約内容の明示方法や保存方法について柔軟な対応が認められる一方で、適切な管理体制の整備が必要です。以下、実務における主要な対応策について解説します。
契約方式の選択と運用
フリーランス新法では、従来の書面による契約だけでなく、電子的方法による契約内容の明示も認められています。メール本文での記載、URLの提示、PDFファイルの添付など、さまざまな電子的手段を活用できます。特に電子契約を活用すると、業務効率化とペーパーレス化を同時に実現可能です。
データの保存と管理
電子的方法で契約を行う場合は、データの適切な保存と管理が重要です。特にSNSでのやり取りについては、メッセージが削除されるリスクがあるため、スクリーンショットなどによる記録保存が推奨されます。また、電子帳簿保存法に対応するため、改ざん防止措置の実施、閲覧可能な状態での保存、検索機能の確保といった要件を満たす必要があります。
契約内容の見直しと整備
法施行に向けて、既存の業務委託契約書の内容を見直す必要があります。業務内容、報酬、支払期日などの重要事項を明確に記載し、フリーランスの権利保護と公正な取引環境の整備という法の趣旨に沿った内容にしなければなりません。この機会を活用して、法的要件を満たしつつ、双方にとって有益な契約関係の構築が望ましいです。
まとめ
フリーランス新法は、フリーランスの権利を保護し、公正な取引環境を整備するための重要な法律です。2024年11月の施行に向けて、スタートアップ企業を含むすべての発注事業者は、契約書の作成・管理方法の見直し、支払い条件の確認、禁止行為の把握など、確実な法令対応が求められます。
また、本法を単なる規制としてではなく、フリーランスとの良好な関係構築の機会として捉え、持続可能な協力関係を築いていくことが重要です。適切な対応を行うことで、フリーランスとの信頼関係を深め、ビジネスの発展につなげられます。
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